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開演前に・・・。

歌舞伎座に片岡仁左衛門、坂東玉三郎の『桜姫東文章』を見に行った。
36年ぶりに復活する人間国宝コンビの『桜姫東文章』
客席は50%に制限されている上、もうこれが見納めであろうと言われるコンビのこの出し物。チケットも即日完売で、私も後方の席を何とか入手した。
開演前、客席に座っていると、「会話はお控え下さい」というパネルを持った女性が、客席を見回っている。そこまではどの劇場でも見かける光景だが、先日の歌舞伎座では、会話している客がいると、パネルを持った係員が、その客の前に行き無言でパネルを突き付けていた。客席内の通路を常に歩き回りながら、キョロキョロとしゃべっている人を探す係員は、20歳そこそこのかわいい顔立ちの女性だが、そのまなざしにはゾッとした。
私も連れとヒソヒソしゃべっていたが、その女性が近づいて来ると黙った。黙らざるをえない雰囲気に持って行けば大正解なのだろうけれど、違和感が心の中で炸裂した。
演劇を守るためにも客席からクラスターを出してはならない。感染予防は当然しなければならない。そのことは私も肝に銘じているのに、お金を払って行った劇場で、そんな風に監視されるのは、心から不愉快だと思ったからだ。
何よりコロナ禍で、人間の心の中に普段は眠っている意地悪さ、他人を監視したりする時の喜びのようなものが、若い係員の態度に露呈していて、こんな時代になったのかと切なくなった。
楽しみにして行った歌舞伎なのに、開演前に心が沈んだ。

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