久世さんの死
テレビ創生期にTBSに入社し、「時間ですよ」「寺内貫太郎一家」「ムー一族」など、先鋭的なホームドラマを創った伝説的ディレクター、久世光彦さんが、2日の朝、亡くなった。
もうさんざんテレビでも新聞でも報道されているし、私も共同通信から頼まれて追悼文を書いたし、婦人公論にも久世さんのことを書いたので、ここでは繰り返さないが、6日のお通夜に私も行った。
気難しい方だったし、テレビの仕事ではいい思い出はないけれど、私は久世さんのお書きになる文章は大好きだった。小説の世界での方が、作家と読者として親しく語り合ったような気がする。
私は久世さんの小説の中では「陛下」という作品が一番好きなのだが、その他のものも、ほとんど読んでいる。小説の話をする時だけ、久世さんはやさしい笑顔を見せた。「お前さんは、俺の小説のいいお客さんだ」と言って、よくご著書も送って下さった。
「女神」という小説の中には、“静さん”という亡霊が出て来る。別に私を意識されてのこととは思わないが、ちょっとうれしかった。
スタイリッシュな方だったので、最期も病気で寝込むこともなく、スパッと逝ったという感じ。いかにも久世さんらしいと思った。
ここ10年くらいずっとこだわって創ってこられた8月の終戦記念ドラマも、お正月の向田邦子シリーズも、もう見られないと思うと残念だ。もうああいうドラマを創る人はいなくなってしまったもの。さらに、あのような美しい文章を書く人は、もう出て来ないだろう。“美文”とは、こういうものだということを、久世さんは教えてくれた。
心よりご冥福を祈りたい。
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